大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2826号 判決

左記の事実は当事者間に争がない。すなわち、被控訴会社は発行済株式総数三三、四八〇株の株式会社であつて、控訴人はその会社の八、一六〇株を有する株主であり、後記株主総会で解任決議がなされるまで同会社の取締役であつた。被控訴会社は昭和三九年一一月八日臨時株主総会を開催し、その当時取締役であつた控訴人を解任する旨の決議をなした上、同月一〇日その旨の登記手続を了した。右株主総会の決議にさいし、控訴人は、その所有の株式及び控訴人を代理人として委任された被控訴会社の二、四四八株の株主である訴外渡辺鞠子、同八一六株の株主である訴外深川高明、同八一六株の株主である訴外榊原重満の、総株式数合計一二、二四〇株について議決権を行使しようとしたが、議長金子真一は、控訴人は上記決議については、特別の利害関係を有しているから、議決権を行使し得ないとして、議決権を行使せしめず、その余の合計二一、二四〇株の出席株主五名の賛成で決議がなされた。

控訴人は、上記株主総会の決議については、特別の利害関係を有する者ではない。したがつて控訴人の議決権を行使させなかつた右株主総会は法令に違反したものであるから、これが取消しを求めると主張するから、次に判断する。

商法第二三九条第五項が、総会の決議について特別の利害関係を有する者に対して議決権の行使を禁じており、特別の利害関係を有するの趣旨については、法律はそれ以上なんら具体的の規定を設けておらないから、解釈上疑義のあるところである。

特定の株主が、その株主である立場を離れて、会社に対し純粋に個人的な利害関係を有する場合がこれに該当することについては異論のないところであるが、個人としての利害関係と同時に、株主として会社に対して利害関係を有する場合、たとえば上記決議のように、控訴人が被控訴会社の取締役に選任せられ、或は取締役を解任せられることについては、取締役個人にとつて、個人として利害関係を有することは否定できないが、それと共に、後記のように、株主として会社に対して重大な利害関係を有していると認められる。このような場合には右特別の利害関係を有する場合に該当するかどうかについて説の分れているところである。

会社制度は、株主が集つて、共同して一つの団体を結成し、この団体の営業活動を通じて、その経済的利益をあげんとするものであるが、株式会社の出資者たる株主は、もともと自己の経済的利得を目的として会社企業に参加しているものであるから、株主が、会社の意思決定機関たる株主総会において議決権を行使する場合でも、あらゆる議決について、会社の利益と同時に自己の利益をも考えて議決権を行使するのは当然である。各株主の利害が対立し、或は見解の相違が生じた場合には法は多数決の理論にしたがつて処理されることを予定しているのである。したがつて、ある特定人を会社の重要な役員である取締役に選任するか、或はある特定人を取締役から解任するかは、会社の経営からみて最も重要な事がらであるから、株主は、その決議について重大な事がらとして発言の機会が与えられ、またその選任、解任について当然議決権を有するものであり、その特定人が株主であるからといつて、議決の権利が全く奪われるものではないと解するを相当とする。その特定人がたまたま、過半数の株式を有して取締役に選任され、或は少数の株式を有するにとどまつて取締役を解任せられる結果となつても、それはやむを得ないものといわざるを得ないのである。したがつて、その特定人は自己の取締役の選任または解任の決議についても、株主としての議決権の行使につき制限を受けないのが当然であるから、このような場合は、上記の特別の利害関係を有する場合には該当しないと解するを相当とする。このように考えても、株主総会の決議の公正は上段判示の趣旨からして、なんら害せられないものといわなければならない。

したがつて、控訴人の上記議決権の行使を認めずに行われた本件株主総会の決議は、商法第二三九条第五項の解釈を誤まつた法令の違反があるといわなければならない。また本件決議については発行済株式総数三三、四八〇株の株主全部の出席があつたことが認められるので、控訴人の本件決議について行使しえたであろうところの株主としての議決権数は一二、二四〇株であつて、商法第二五七条第二項、第三四三条による議決権の三分の一以上にあたるものであること明らかであるから、控訴人の議決権を認めれば、一応本件決議は成立しなかつたものと認めるを相当とする。

(村松 江尻 矢ケ崎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!